「The Connected car―変貌を遂げる車社会とICTとの密連携―」
ICTとクルマの未来はどうなっていくのか

~日本PTCフォーラム2015抄録~

 

平成27年6月15日(月)、PTC日本委員会の主催によるフォーラム「日本PTCフォーラム2015」が、主婦会館プラザエフ(東京都千代田区)で開催された。今回は「The Connected car―変貌を遂げる車社会とICTとの密連携―」がテーマ。登壇者を中心に、会場全体で活発な議論が交わされた。

 

まず冒頭では、鍋倉眞一氏(PTC日本委員会委員長)による主催者挨拶が行われた。

 

続いて、井上友二氏(株式会社トヨタIT開発センター会長)による基調講演が行われた。テーマは「車からクルマへ:らくらく社会のインフラへ」である。

井上 自動運転には、自動車業界とICT業界とで発想に違いがあります。まず、2014年9月にトヨタが開発した高度運転支援機能を搭載した自動車を見てみますと、そこにはハンドルがあり、ブレーキがあります。一方、2014年5月にグーグルが開発した自動運転車を見てみますと、そこにはハンドルもブレーキもありません。ICT業界の発想では、自動運転車は人間が操作する必要がないのでハンドルもブレーキも最初から存在せず、異常時・緊急時のリセットボタンだけが用意されています。
そもそも自動運転の発端となったのは、いわゆる「自動ブレーキ」(衝突被害軽減ブレーキ)です。2010年にスバル・レガシーで本格化されました。ちなみに、日本では「自動ブレーキ」という表現はNGとなっています。
現在、「自動ブレーキ」の義務化が進められています。新型トラックについては、2014年11月より、車両総重量の重いトラックから順に義務化されていっています。新型バスについても、2014年11月から義務化が順次始まっています。また、欧米でも「自動ブレーキ」の義務化が進められています。
「自動ブレーキ」は、あくまでも従来型の「車」に付加された機能に過ぎません。「携帯電話」がICTと融合して「ケータイ」になったように、「車」もネットに繋がることで「クルマ」へと変貌しつつあります。以下、当社で取り組んでいる「クルマ」としての機能・サービスをご紹介していきます。
1つめは「駐車中の車の活用」です。みなさんもそうだと思いますが、自動車はほとんどの時間、駐車場に停まっています。アメリカでは年間950時間、自動車が稼働している一方で、実に7050時間もの間、自動車は駐車場に停められています。
エンジンを切り、駐車場に停められた自動車はただの箱です。それなのに駐車場代などの維持費だけはかかっていきます。
消費者もこうした状況に疑問を感じるようになってきているようです。だからこそ、所有からシェアへという流れも広がってきているのでしょう。日本だけでなくアメリカでも若者の自動車離れは進んでいます。
大半の時間を駐車場でただの箱として自動車が放置されている状況を、私は「Auto 1.0」と呼んでいます。これに対して、駐車中の自動車を活用し、年間7000~8000時間という時間を有効活用すべく、「Auto 2.0」を提唱しています。
具体的には、たとえば駐車中の自動車にカメラを搭載し、防犯に活用するというものです。ライトで不審者を威嚇するのもいいでしょう。また、外側にスピーカーを付けることで、よりピンポイントな防災放送として使うこともできそうです。農地の側に駐車させれば、軽トラックで農業クラウドデータの処理を行うといったことも考えられます。
2つめは「らくらくカー」です。携帯電話にはシニア向けの「らくらくホン」があるのに、自動車は依然として、若くて運動神経が優れた年代に合わせたままとなっています。免許が必要ない携帯電話ですら「らくらくホン」があるのですから、自動車にも「らくらくカー」があって然るべきです。
運転支援や駐車支援、運転モニターといった機能を搭載した「らくらくカー」によって、シニアでも安心して運転することができるようになります。さらに、医療業界、小売業界、介護業界、土木業界などとも連携し、目的地に簡単に行けるような区画、すなわち「らくらくスマートタウン」を構築していくことも必要でしょう。
3つめは「スマートマイニング」です。これは、鉱山用のクローズドなシステムに「Auto 2.0」型の自動車を活用するものです。
海外の大規模な鉱山では、鉱山内で常時数百名が働き、2~4トントラックが坑道を走り回っています。当社では、今年6月4日に、南米チリの鉱山にスマートマイニングを導入する契約も取り交わしました。
スマートマイニングでは、自動車にハブ機能(「Car Hub」)を持たせ、移動クラウドネットワークを形成します。また、作業員にもウェアラブルを持たせ、健康管理や危険通知等を行うことができます。
以上のような、自動車がネットに繋がる「クルマ」の時代には、いかに安全を担保するかということが課題となります。ある意味で責任が曖昧なインターネットという世界と、安全基準やPL法などで厳しく責任が問われる自動車の世界。両者をうまく繋いでいくことが求められています。
日本には7000万台の「クルマ」があります。そこに「Car Hub」を積めば、膨大なリソースが生まれます。そうした有り余るリソースをどうやって活用するか。贅沢な悩みではありますが、だからこそこれからは「クルマ」が面白いのです。

 

・自動運転の目的・効果および発展段階

 基調講演に続いて、パネル・ディスカッションが行われた。ディスカッションに先立ち、モデレータおよび各パネリストによるプレゼンテーションを実施。順に、須田義大氏(東京大学大学院教授、東京大学生産技術研究所千葉実験所長、次世代モビリティ研究センター長)、福島正夫氏(日産自動車株式会社環境・安全技術渉外部技術顧問)、横山利夫氏(一般社団法人日本自動車工業会自動運転検討会主査、株式会社本田技術研究所四輪R&D第12ブロック上席研究員)、平林立彦氏(株式会社KDDI総研取締役・主席研究員)、前川誠氏(日本電気株式会社パブリックビジネスユニット、エグゼクティブ・エキスパート)が登壇した。
須田氏は「ビッグデータによるITSの展開―つながるクルマと自動運転―」をテーマにプレゼンテーションを行った。

須田 これまでの交通システムは、ドライバ・乗客、車両、インフラの3者がバラバラでした。非効率な状態となり、渋滞や事故等を発生させてきたと言えます。
そうした問題を解決するためには、ICTによって3者をコミュニケーションさせる必要があります。近年、ビッグデータ、V2X、IoT/IoE、自動運転といった分野が発展したことで、実現可能性が高まってきました。
ここで、自動運転の目的・効果について整理しておきましょう。まずは、安全性の向上、ドライバーの負荷を低減して快適性を向上、省エネ運転が容易となり燃費向上といったことが考えられます。その他にも、交通容量の増加が実現すれば渋滞緩和、環境低負荷、高齢者をはじめとする交通弱者にとっても運転の自動化で利便性向上、交通体系進化による社会の生産性向上に貢献といった効果が挙げられます。自動運転は、モビリティ社会を大きく変革することでしょう。
もっとも、自動運転は一足飛びに実現されるわけではなく、いくつかの段階があります。まずは自動ブレーキなどの「運転支援」段階です。次に、ハンドル、アクセルなどの運転操作を自動化する「部分的自動化」段階が来ます。さらに、一定の条件下で環境認識まで自動化する「限定的自動化」、通常の走行環境なら自動化する「高度な自動化」となります。
ここまでは、少なくとも異常時対応についてはドライバーが行わなければなりませんし、最終的な運転責任は人間にあります。ドライバーが寝てしまっていないか等のドライバーモニタリングも必要となります。
一方で、人間が全く関与しなくてもよくなるのが、最終段階となる「完全自動化(無人走行)」です。この段階では、異常時も含めて自動化されます。
現状では、最終段階である「完全自動化」はまだ先で、人間の責任で行われる「限定的自動化」や「高度な自動化」の開発・実用化が進められているところです。あくまでも人間の責任が前提となっている以上、一見矛盾しているようですが、自動運転にはHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)が欠かせないというわけです。
自動運転によるモビリティ社会の変革は、次のようなステップで起きていくことになると思います。まずは現行法制度における展開で、高度安全運転支援による交通事故死ゼロ化、渋滞解消効率化、ART・自動運転バスによる公共交通の進化等が起きるでしょう。
次に、制度改革を伴うことでさらなる社会変革が起きます。具体的には、自動運転限定免許による高齢ドライバー支援、小型モビリティ・PMV・低速車両への適用、無人タクシー・無人物流システムなどです。
自動運転が進展するにつれ、都市構造、PL制度や保険制度といった社会システムの変革が必然的に起きていくでしょう。新産業の創出もおおいに期待されます。

 

・官民ITS構想・ロードマップとSIP

 福島氏は「自動走行システム研究開発の国の活動状況」をテーマにプレゼンテーションを行った。

福島 自動走行システム研究開発については、近年、国が取り組みを積極化させています。まず2013年6月に、「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定されました。府省横断的なロードマップを策定するとともに、推進体制を構築し、高度運転支援技術・自動走行システムの開発・実用化等を推進することも盛り込まれました。
2013年10月から2014年3月にかけては、IT総合戦略本部新戦略専門委員会の下に道路交通分科会が設置され、ITS構想・ロードマップについての議論が行われました。安全運転支援、自動走行システム、交通データの利活用がその対象でした。
そして2014年6月、「官民ITS構想・ロードマップ」が決定されました。制度面も含めたITSに係る世界初の国家戦略で、2030年を視野に、市場期待時期を明記しています。また、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の自動走行システムとの密接な連携も謳われました。
SIPとは、社会的に不可欠で、日本の経済・産業競争力にとって重要な課題について、総合科学技術・イノベーション会議が10の課題を選定したものです。府省・分野横断的な取り組みであり、基礎研究から実用化・事業化までを見据えて、一気通貫で研究開発を推進します。規制・制度、特区、政府調達等も活用し、国際標準化も意識されています。
SIPの自動走行システムプログラムは、自動走行も含む新たな交通システムを実現することを目指しています。事故や渋滞を抜本的に削減するとともに、移動の利便性を飛躍的に向上させようというものです。
出口戦略と市場化目標時期については、次のように定められています。まず、2017年以降をメドに、加速・操舵・制動のうち複数の操作を同時にシステムが行う状態の実現が目指されています。
次に、2020年代前半には、加速・操舵・制動全てをシステムが行う状態とすることが目標となっています。ただし、システムが要請した時はあくまでもドライバーが対応するという「準自動走行システム」の段階です。
そして、2020年代後半には、「完全自動走行システム」の実現を目指します。加速・操舵・制動全てをドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態を達成するというわけです。

 

・自動運転でのITS電波活用について

 横山氏は「自動走行実現に向けた官民の取り組み、通信への期待」をテーマにプレゼンテーションを行った。

横山 自動運転は、日本政府の成長戦略において重要分野と位置付けられてきました。また、米欧でも自動運転の活発な議論が開始されています。
しかし、自工会(日本自動車工業会)の安全・環境技術委員会内には、自動運転に関する一貫した検討組織が存在しませんでした。各部会が独自に活動しており、横串機能の組織が存在しなかったのです。
そこで、自動運転に対する自工会のスタンスを整理するとともに、対外的窓口機能(基準・規格策定、各省庁、国際対応)を強化するべく、自動運転検討会を立ち上げました。
自動運転検討会には4つの役割があると考えています。1つめは国際基準調和活動の推進です。自動運転のレベル分け定義はまだ各国でバラバラですし、ドライバーとシステムの責任区分も国際的な取り決めが必要です。
2つめは自動運転システム実現に向けたビジョン作成です。4輪自動車だけでなく、2輪、歩行者なども含めた混合交通社会を前提としたビジョンが求められています。
3つめは自動運転システム実現に向けたインフラとの協調、整備です。たとえば、セキュアで鮮度の高い各種情報(信号機情報、規制情報、歩行者情報等)を用いたダイナミックマップの検討も進めていきます。また、自動運転でのITS電波活用についても検討してきました。
そして4つめが自工会内関係委員会との連携、および必要な技術項目の検討推進です。
自動運転でのITS電波活用については、次のような活用例を考えています。まずは「道路からの先読み情報」です。自立センサでは検知できない先の情報を道路より取得することで、円滑な自動走行を実現します。
続いては「自動運転車による情報収集・再配信」です。自動走行車のセンサで路上障害物等のハザード情報を収集し、道路に送信します。その情報を、ある地点で対向車両に対して再配信していきます。
また、安全でスムーズな合流・車線変更を実現する「合流・車線変更箇所での電波活用」、隊列車両間で自動制御情報を相互交換して隊列走行を実現する「隊列走行での電波活用」も想定しています。
とりわけ「隊列走行」は重要ではないでしょうか。というのも、物流業界ではトラックドライバーの高齢化、人手不足が深刻化しているからです。物流のためにも是非とも実現したいテーマだと考えています。

 

・Connected Carのビジネス展開のカギ

平林氏は「IoT時代におけるConnected Carビジネス」をテーマにプレゼンテーションを行った。

平林 インターネットに接続されるモノは、2020年までに500億台に達するとの予測があるように、IoT需要は近々爆発するとの声が目立ちます。一方、スマートホーム、スマートメーター、スマートシティなどと騒がれますが、本当にそれだけの需要が爆発するような魅力あるアプリケーションやサービスが登場してくるのか疑問視する声もあります。しかし、スマホも何がキラーかというと人それぞれであって、超多様なニーズに応えていけるところが大きな魅力となっている訳で、Connected Carも同様なのではないでしょうか。
また、あらゆるモノを通じて結びつく現実社会・生活と人工知性とが有機的に連携し持続的な運用を可能とするOS(リアルおよびサイバー相互運用システム)が、こうした需要爆発の大きなカギとなってくるように感じています。
こうした問題を、Connected Carビジネスという側面において変化する「チェンジ領域」とそれを実現するために乗り越えなければならない「チャレンジ領域」に分けて掘り下げてみましょう。
まずはチェンジ領域から見ていきます。
今後、アプリケーション・ソフトウエア実装の多様化に伴い、スマホに同じスマホがないのと同様に、同じ自動車はなくなっていくことになります。そうなると従来の自動車と違って、品質管理が大変なことになります。
しかも、スマホは止まっても人命が失われるわけではないですが、自動車はそうはいかないのです。高級車ならセキュリティ機能が付いているが、エコノミーカーでは省かれるということには決してなりません。したがって、セキュリティの基本対策については車格に関わらず共通化されていくと思います。一方、本人確認などの利便性の向上やインシデント事後対応といった点で差別化が図られていくでしょう。
また、超多様なサービスの提供を実現・進化させていくために、運転コンテキストやライフログ(行動・趣味・嗜好・健康状態等)も活用されていくはずです。
続いてチャレンジ領域について見ていきます。同じ自動車がなくなるわけですから、「車種×OS×アプリケーション」という膨大な組み合わせに対し、効率的な対処をすることが求められます。そのため、OSに依存しないWeb技術に注目が集まってきています。
セキュリティについては、デバイス、アクセス先、データ、アプリケーションに対する認証機能の充実、インシデント発生検出と走行基本機能の継続性を含めた事後対応が避けて通れない課題です。
また、超多様なニーズに応えていくには、運転コンテキストを含めた多様かつ広範なプローブデータの効率的収集・分析・活用が必須となるのですが、世界中の人に受け入れられる明解なプライバシー保護技術も必要となってきています。 
以上述べたこと、いずれもが常に変化し、新たな対応が求められるようになることから、Connected Carのビジネス展開のカギは、安全性と利便性に配慮した「Upgradability」と「Updatability」にあると言えます。
本日は、チェンジ・チャレンジ領域について主要な点に絞ってお話しをさせて頂きましたが、KDDI総研は、その中の幾つかにチャレンジすべく、SIPにおいても次世代ITSの開発に取り組んでいます。

 

・自動車メーカーはサービス拡大の好機

 前川氏は「IoT視点から見た自動走行」をテーマにプレゼンテーションを行った。

前川 IoTの本質とは、集めたデータをどのように知識化、ルール化して知性に変換させていくのか、ということになると思います。今までは、AIの発展が十分ではなく、知性までの変換は進んでいませんでした。しかし、近年はAIの進歩により、データから知識・知性への変換が加速しています。ビッグデータ革命の本質も、機械による経験の集積と活用ということだと言えます。
従来は、文法・手筋などの人間の知見をルール化して、データ処理が行われていました。すなわち、演繹的なアプローチです。
しかし、ビッグデータ革命後は、膨大な翻訳事例、対局事例等を蓄積し、これらの大量データからルールを自動抽出(データマイニング・学習)するようになりました。帰納的なアプローチが可能となったのです。
これからの時代は、適切なデータを大量に集めて処理すれば、高度な知見を生成することができるようになってきました。経験(データ蓄積)を知恵にするという意味では、幼児の学習メカニズムにも似ています。幼児は文法など知らなくても言葉を話すことができるようになるからです。
AIの発展によりIoTの拡大が必然的となった現在、各国は積極的な取り組みを行っています。たとえば製造業が24%を占めるドイツでは、「Industrie 4.0」という、モノづくり回帰を目指す官民をあげた国家的プロジェクトが進められています。
具体的にはIoTを製造業に応用するもので、SAP、BOSCH、SIEMENSといった企業がプロジェクトの中核となっています。顧客から製造までをネットでつなぎ、究極的にはmass-customization(一品生産)が目指されています。また、製造ノウハウをデジタル化、水平展開し、コストダウンも推進しています。
サービス業が強いアメリカでは、産業のインターネット化を促進させ、新たなサービスビジネスを創生するために、民間を中心にコンソーシアム結成の動きが広がっています。AT&T、CISCO、GE、Intel、IBMによる「Industrial Internet Consortium(IIC)」、Qualcommを中心とした「ALLSEEN ALLIANCE」、Intelを中心とした「OPEN INTERCONNECT」、Googleを中心とした「Thread Group」があります。
IoT時代においては、「誰がデータを押さえるのか?」が重要です。そのために各コンソーシアムは、プラットフォームの標準化に向けた仲間作りを始めているのです。
一方、日本ではコンセプトは出てきているものの、まだ具体的なコンソーシアム結成等の動きは見られません。今後の展開に期待したいところです。
「Thread Group」の中心となっているGoogleは、自動運転によってサービスの拡大を狙っています。ビッグデータを活用しながら、自動車や地図・交通の世界と従来から手がけてきたICTサービスを融合させようとしています。Google以外にも、Apple、Alibaba Group、百度といったICT企業が同様のことを目論んでいます。
言い換えると、自動車メーカーにとっても自動運転はサービス拡大のチャンスとなり得ます。自動車というモノにこだわらず、自動車メーカーもさまざまなサービスを展開していくことで、自動車とICTの融合はますます進んでいくと思われます。

 

・ICTとクルマの可能性、未来像について

 プレゼンテーション後、須田氏をモデレータにしてディスカッションが行われた。ディスカッションには井上氏も参加した。

須田氏 ICTとクルマの可能性、未来像について、改めてみなさんのご意見をお聞かせ下さい。
井上氏 クルマはスマホと違って“マッチョ”な存在です。というのは、バッテリーが段違いに強力だからです。
ハイブリッド車のバッテリーは4kWくらいになります。ただ、その4kWはすべてエンジンに回されていますので、AVまわりについては相変わらず60Wのバッテリーが使われています。そこのところを何とか改善して、4kWの“マッチョ”なバッテリーを他用途に使うことができれば、面白いことになると思います。
一方で、クルマ屋はアプリケーションを作ることができません。そこはICT業界とコラボレーションしながらやっていくことになるでしょう。“マッチョ”な部分はクルマ屋が担当しつつも、基本的にはさまざまな業界が連携して開発を進めて、自動走行等をいち早く実用化していくことが重要だと思います。
福島氏 日本は、カーナビやETCなど、通信インフラが既に整っています。先ほどお話しした官民ITS構想・ロードマップでも、日本は世界一になると謳われていますが、既存のインフラを活用しない手はないでしょう。
また、日本の交通渋滞による経済損失は12兆円とも言われます。ITSに加えて交通需要のコントロール施策(課金、制限等)等を導入し、渋滞を何とか解消していくことで、日本経済の再生にもつながっていくと思います。
横山氏 現在、日本の人口は1億3000万人くらいですが、2050年には1億人になると見られています。現在、65歳以上の割合は4人に1人ですが、2050年には3人に1人になると言われています。
次に、日本の自動車販売台数を見てみると、現在は年間500~600万台ですが、人口減少と高齢化によって厳しい数字になっていくことは避けられません。となると、自動車に新しい魅力を付け加えることによって、世の中もハッピーになり、自動車業界としても競争力を維持していくことが重要になります。
平林氏 米アウディの人の話によれば、2013年で、自社のクルマが選ばれる理由として「Connectedであること」が第2位に入り、2014年には、ついに第1位になったそうです。アメリカに限らず、これからは「Connectedであること」が、自動車選びの重要な要素になってくるということなのでしょう。
それからもう1つ、当社が行った調査の話をしたいと思います。当社では「愛着」というテーマで、どういうモノに人が愛着を感じるのかという調査をしたことがあります。
その結果は、やはり「ペット」が第1位でした。ペットをモノと言ってはかわいそうかもしれませんが、やはり飼っている犬や猫に人は愛着を感じています。
驚くべきは、第2位の結果です。何と、第2位はスマホを抑えて「自動車」でした。
何の会話もしない現在の自動車でさえも、これだけ愛着を持たれているのです。ということは、Connectedとなり、愛着を増強するような展開をしていけば、自動車は単なる「自動運転もできる便利な道具」ではなく、「人間の仲間」としてさらに愛着を持たれるようになるはずです。そういう自動車を作っていくことも重要なのではないでしょうか。

 

・自動運転の社会受容とビジネス可能性

須田氏 自動運転のような新しいモノができた時に、本当に社会に受け入れられるかという問題もあります。ビジネス可能性も含めて、社会の受容についてはいかがでしょうか。
福島氏 そもそも自動運転の必要性や目的について、議論が深まっていない印象があります。公共の利益という観点と、ユーザーの利益という観点の両面から見ていく必要があると思います。
たとえば、アメリカのような自動車通勤社会では、自動運転によって通勤中の時間のロスを解消できるという意味で、ユーザーのメリットが大きいでしょう。また、物流についていえば、深夜に高速道路を走るトラック1台1台にドライバーが張り付いていること自体が社会的ロスなわけですから、隊列走行でロスを解消することは国力の増進にもつながります。
横山氏 自動運転の必要性に加えて、安全性ということも世間の受容という観点から重要になってきます。自動運転車も工業製品ですので、完全無欠ということはあり得ません。そうした前提の上で、たとえば「ベテランドライバーと同等以上の安全性」という条件で世間が受け入れてくれるのであれば、自動運転は普及すると思います。
しかし、「自動運転なのだから、完全無欠でぶつからない、ぶつけられないという条件でないとダメだ」というのが世間の声になってしまうと、その瞬間に自動運転車は世の中に出ていくことができなくなります。自動運転のプラスとマイナスの両面をちゃんと世の中に知ってもらい、受け入れてもらうことが大事になってきます。また、万が一、事故等が起きた際の役割分担、責任区分についても社会的合意を形成していく必要があります。
それから、法定速度の問題もあります。自動運転車は法定速度で走らなければならないのですが、公道に出ると人が運転する自動車に抜かれていきます。このまま法定速度で走る自動運転車が世の中に出ていくと、かえって交通渋滞を引き起こすという矛盾も想定されます。
平林氏 私は自動車の運転が好きなので、命をかけてまで完全自動運転車に乗りたいとは思いません(笑)。高速道路での部分的・限定的な自動化なら便利であり受け入れ可能というのが、現時点での多くのドライバーの本音でしょう。ただ、2050年くらいになると、自動運転車が当たり前になり、「あなた本気で運転する気?」とクルマ側から人間が質問されるようになっているでしょう。
今から2050年の間のいつごろ、完全自動運転が主流へと逆転するのか、非常に気になるところであり、ビジネス上も、そうした変化を見込んだ展開が重要かと思います。
前川氏 私は逆に運転があまり好きではないので、自動運転は非常に頼もしいです(笑)。日本は高齢化も進んでいますから、なるべく早い内から自動運転が実用化されてほしいと期待しています。
井上氏 ビジネスの観点からお話しますと、現在、通信業界で頭痛の種となっているOTT問題が、Connectedとなることで自動車業界にも起きてくると考えています。自動運転を進めた結果、OTTに牛耳られてしまったということになっては元も子もありません。
通信業界でどのようにキャリアがOTTに苦しめられてきたかということを学びながら、自動車業界での二の舞を避けていく取り組みが求められています。OTT問題を避けられるかどうかが、次の時代に自動車業界が生き残れるかどうかの分岐点になると思います。
須田氏 自動車業界とICT業界の双方が知恵を出し合って、Win-Winの関係にしていくことが課題になってきそうですね。本日は、さまざまな問題提起の場にもなったと思います。活発なご議論をいただきまして、本当にありがとうございました。

 

 フォーラム終了後は、主婦会館プラザエフ内で懇親会が開かれ、引き続き参加者同士の意見交換が活発に行われた。ITSや自動走行システムをテーマとした今回のフォーラムには、ICT業界だけでなく自動車業界からの参加者も多数見られ、盛況であった。

ptcj

PTC日本委員会

 

〒160-0022 
東京都新宿区新宿1-17-11
BN御苑ビル 5階 
一般財団法人 日本ITU協会 内
TEL080-6250-8366(PTCJ専用)